62歳、また自分を掘っている
父の介護をめぐる家族間のあれこれがきっかけで、また自分の内面を掘り下げてしまった。
もう62歳である。
いったい、いつまでやるつもりなんやろう。
これまで、心理学のさまざまな理論や手法を学び、実際に体験もしてきた。
そのたびに、なるほどなあと思うことがある。
自分でも気づかなかった思考の癖。自分が何に傷ついてきたのか、そして何を大切にしてきたのか。
過去の出来事と今の感情がつながり、それまで見えていなかった自分に気づくこともあった。
それはそれで、意味のあることだった。
ところが、ふと思った。
私は、自分を理解するために心理を使っているのか。
それとも、心理の理論に合わせて、自分の中から問題を探しているのか。
ここ、案外大きな違いなんちゃうやろか。
扉があるなら、全部開けなあかんのか
心理の世界には、実に多くの理論や手法が存在する。
ひとつ肝におちたと思えば、その奥に別の問題があるという。
その問題を見つけたと思えば、さらに深いところに原因があるらしい。
なんや、心の中は地下何階まであるねん。
しかも、地下室はひとつやない。
あっちにもこっちにも扉があって、開ければまた別の部屋がある。
いや、実際にそういうことはある。
ひとつの気づきから、忘れていた記憶や感情につながることもあるし、自分の知らなかった一面が顔を出すこともある。
一度入った部屋に、また入ってしまうことだってある。
「あれ、ここ前にも来たやん」
ところが、そういう部屋に限って、案外、自分の核心に触れるものがあったりする。
前に来たときには気づかなかったものが、今になって見えてくることもある。
だから、何度も同じところを訪れることが、必ずしも無駄だとは思わない。
ただ、そこに何かがあるからといって、毎回向き合わなければならないわけでもない。
掘り下げることに意味はある。でも、掘り下げ続けることが目的になってはいけない。
扉があるからといって、全部開けなあかんのやろか。
「まだ足りない自分」を探し続けて
心理を学ぶことで救われる人もいるし、私自身、気づかされたこともたくさんある。
ただ、気をつけないと、
「まだ解決していない問題がある自分」
を、延々と探し続けることにもなりかねない。
そして、その問題を解決するための講座やセッションも、世の中には山ほどある。
ここで、もうひとつ気になることがある。
人の心を扱う商売が、かえって本人の不安を増やしてはいないだろうか。
「あなたには、まだ向き合っていない問題があります」
「本当の原因は、もっと深いところにあります」
そう言われれば、気になるのが人間である。
自分にはまだ何か欠けているのではないか。
このままでは幸せになれないのではないか。
そんな不安が、次の講座やセッションへと足を向けさせることもあるだろう。
もちろん、長く支援を必要とする人もいるし、誠実に向き合っている専門家も大勢いる。
だから、心理を仕事にすること自体が悪いとは思わない。
ただ、人を楽にするための支援が、その人を「まだ足りない自分」に縛りつけてしまうのだとしたら、
それは少し違うんじゃないか。
いや、人ごとではない。
私もその入口を、何度もくぐってきたのだから。
心理学は、自分の問題を探し続けるためのものではない。
そもそも、人間の心なんて、そんなにきれいに整理できるものなんやろか。
矛盾もある。
思い込みもある。
昨日と今日で言うことが違う自分もいる。
それでええんちゃうか。
心理学は、自分を理解するための道具であって、自分の問題さがしを
延々とするための道具ではない。
何もかも解決した人間にならなくても、人生は続いていく。
自分の中に問題があると知ることと、自分を問題のある人間だと思うことは違う。
そこを取り違えないようにしたい。
自分のことを、何もかも理解する必要はないと思う。
何かがストンと腹に落ちて、それまでの考え方や生き方が変わることもある。
そういう気づきには、確かに意味がある。
でも、すべてに答えを出さなくてもええんちゃうやろか。
心理を学ぶことと、心理に振り回されることは違う。
知りたいことは、これからも学び、体験していけばいい。
ただ、学んだことや体験したことのすべてを自分に当てはめて、問題を探す必要はない。
それでも、また扉を見つけてしまう
わからない自分が残っていたって、明日も腹は減るし、仕事はあるし、腹の立つこともある。
父のことで、家族のことで、たぶんまた同じところでつまずく。
まあ、それも含めて私なんやろう。
とはいえ、また何かの拍子に「なになに? それってどういうこと?」と、知りたい、わかりたいが顔を出す。
どうやら、私の中の「いっちょかみ」は、そう簡単には引っ込まないらしい。
きっとまた、新しい扉を見つけてしまうのだろう。
開けるかどうかは、そのとき考えよう。
それもまた、心理学的には何か名前がついているのかもしれない。
**だいたい、佐々木なんてそんなもんである。**

